姫恋華〜ひめれんげ〜【改稿版】
「用心棒としてこちらに詰めております。風間と申します」
「用心棒は奥には来るなと言い付けていたと思うが」
「は。あまりに不穏な事態ゆえ」
ちらりと佐伯が黒づくめの男を振り返った。
男は口元を歪めたまま、こちらを見ている。
「ここはいい。早く侵入者を斬り捨てるのだ」
「それは、出来ませぬ」
「なに?どういうことだ」
「侵入者よりも、こちらにいる悪党の方が悪質でございましょう」
「そなた、何を言うている」
「これに見覚えがございませんか」
そう言うと、新之助は一枚の文書を差し出した。
「なんだ、これは」
佐伯はそれを見た途端に青ざめた。
「国許に送るはずの西洋式鉄砲を江戸の商人に売りつけようとしたものの、その商人から断りの文書が来たと、そういうことでございますな。さらにもう二・三。こちらは鉄砲買い付けを了承したとの書簡。こちらは代金領収の証文……」
「……知らぬ。わしは知らぬ」
「知らぬはずはございますまい。それと前後して、国許で稲垣家の当主と内儀が何者かに襲われ落命しております。おそらくはその鉄砲の横流しに気付かれたと思い襲わせたのでございましょう。稲垣家当主はその頃財政監査を行うために江戸に赴き帳簿を改めたのち帰国したばかり。疑問に思ったことをご家老にでも報告したものと思われる。そういえば、ご家老のお身内がご正室さまでございましたな」
新之助が言葉を続ける毎に、佐伯の顔がどんどん青くなっていった。
「となれば、鉄砲横流しにご家老も加担されているのかも知れませぬ。その折の帳簿もこちらに」
新之助が懐に手をやった。
「く、曲者……」
声を上げかけた佐伯の喉元に新之助が懐剣を突き付けた。
「ひ……」
「話はまだ終わっておらぬ。しばし待たれよ」
「い、いくら欲しいのだ?」
「……」
「用心棒の賃金だけで不満ならば、言い値で払ってやる。それらの書簡も買い取ってやろう」
新之助はくっと口の端を上げた。
「ほう。ならば、いくら払う?」
「じゅ、十両。十両でどうだ」
「安い」
「では二十」
「その程度の額で御身が守れるとお思いか」
「では、いくら……」
佐伯の向こうで黒づくめの男が動いた。
咄嗟に佐伯の襟首を掴み脇に投げた。
佐伯がもんどりうって畳に転がり、ガッという金属と金属がぶつかり合う音がしたと思うと、新之助は懐剣で男の振るった何かを弾き飛ばしていた。
部屋の隅まで飛んだそれを見れば、棒状の手裏剣だった。
「無駄口はそのくらいにしておけ」
男が近付いてくる。
そして佐伯を見て冷笑を浮かべた。
「用心棒は奥には来るなと言い付けていたと思うが」
「は。あまりに不穏な事態ゆえ」
ちらりと佐伯が黒づくめの男を振り返った。
男は口元を歪めたまま、こちらを見ている。
「ここはいい。早く侵入者を斬り捨てるのだ」
「それは、出来ませぬ」
「なに?どういうことだ」
「侵入者よりも、こちらにいる悪党の方が悪質でございましょう」
「そなた、何を言うている」
「これに見覚えがございませんか」
そう言うと、新之助は一枚の文書を差し出した。
「なんだ、これは」
佐伯はそれを見た途端に青ざめた。
「国許に送るはずの西洋式鉄砲を江戸の商人に売りつけようとしたものの、その商人から断りの文書が来たと、そういうことでございますな。さらにもう二・三。こちらは鉄砲買い付けを了承したとの書簡。こちらは代金領収の証文……」
「……知らぬ。わしは知らぬ」
「知らぬはずはございますまい。それと前後して、国許で稲垣家の当主と内儀が何者かに襲われ落命しております。おそらくはその鉄砲の横流しに気付かれたと思い襲わせたのでございましょう。稲垣家当主はその頃財政監査を行うために江戸に赴き帳簿を改めたのち帰国したばかり。疑問に思ったことをご家老にでも報告したものと思われる。そういえば、ご家老のお身内がご正室さまでございましたな」
新之助が言葉を続ける毎に、佐伯の顔がどんどん青くなっていった。
「となれば、鉄砲横流しにご家老も加担されているのかも知れませぬ。その折の帳簿もこちらに」
新之助が懐に手をやった。
「く、曲者……」
声を上げかけた佐伯の喉元に新之助が懐剣を突き付けた。
「ひ……」
「話はまだ終わっておらぬ。しばし待たれよ」
「い、いくら欲しいのだ?」
「……」
「用心棒の賃金だけで不満ならば、言い値で払ってやる。それらの書簡も買い取ってやろう」
新之助はくっと口の端を上げた。
「ほう。ならば、いくら払う?」
「じゅ、十両。十両でどうだ」
「安い」
「では二十」
「その程度の額で御身が守れるとお思いか」
「では、いくら……」
佐伯の向こうで黒づくめの男が動いた。
咄嗟に佐伯の襟首を掴み脇に投げた。
佐伯がもんどりうって畳に転がり、ガッという金属と金属がぶつかり合う音がしたと思うと、新之助は懐剣で男の振るった何かを弾き飛ばしていた。
部屋の隅まで飛んだそれを見れば、棒状の手裏剣だった。
「無駄口はそのくらいにしておけ」
男が近付いてくる。
そして佐伯を見て冷笑を浮かべた。