姫恋華〜ひめれんげ〜【改稿版】
「あの花の宴の折(おり)に」と、和成は続けた。

「花の宴?」

「はい、皆さまが行啓くださった折に」

 政光は嫌な予感がした。小躍りしていた気分も、一気に萎(しぼ)んでいった。

(和成よ、それ以上言うな)

 政光は声を上げそうになった。

「恐れ多くも、妹姫に……」

(俺の妹は一人だけだ。ゆらだけだ。あれに、お前は懸想したというのか……)

 強い意思の籠った眼差しでこちらを見る和成を、政光は呆然たる思いで見返していた。

「……断る必要なんてないさ。」
 ほどなくして、政光の口からは、そんな言葉が出ていた。

「しかし」

「もし断ったとして、領地領民に累が及んだらどうするんだ?」

「及ばぬように努力致します。私一人の問題で終わるように」

「終わらなかったら?」

「それでも……。それでも、自分の気持ちに嘘はつけません。政光さまは、ご自分に思う女性がいたとして、他の女性を抱けますか?」

 愛しい少女の面影が過ぎり、政光は頭を振った。

「私も、無理です。思いが届かなくとも、私は一人の人を思い続ける」

 和成ははっきりと言い切った。

(こいつ、相談に来たのに、自分で結論出したよ)
 
 苦笑する政光を残し、和成は晴れ晴れとした顔をして帰って行った。

 結局、政光がより落ち込んだだけの面会となってしまった。

 ほどなく、将軍は、夕羅との縁談を和成に持ち掛けるだろう。

 そして彼は憂いなくそれを受け、婚姻は成立するだろう。

 城から光は失われ、それからは?

(それから俺はどうなるのか……)

 所在無げに縁に立つと、春のそよ風に吹かれた。

 けれど政光には、それを楽しむ余裕はない。

 今はただ、胸をえぐるような痛みしか、感じることはなかった。






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