姫恋華〜ひめれんげ〜【改稿版】
 言葉をなくす宗明を余所に、ゆらはその人のもとに行こうとしている。そんなゆらの肩を、宗明はがしっと掴んだ。

「ゆらさま。あちらにたくさん団子がありましたよ。そうです。ゆらさまと言えば団子でしょう?さあ、参りましょう」

 宗明にしては珍しい早口で促せば、ゆらはすぐにその気になり、「早く教えてよう」と言いながら団子が置いてある茶席の方に足を向けた。
 
 宗明は小さく息をついた。ゆらの口から異性を褒める言葉が出たことに、おかしいくらいに動揺している自分がいる。

 今はまだ団子の方に重きを置いている彼女だったが、もしその心が特定の誰かで占められるようになったら?

(考えたくもないな……)

 そんな宗明の心情などお構いなしに無心に大好きな団子を頬張るゆら。

 いつになっても心穏やかには過ごせそうにないことに、宗明は深い溜め息を吐いた。

 桜の花びらが舞う庭で運命の歯車が回り始めた。けれど、年の割に幼いゆら姫がその事に気付くことはなく、いつまでもこの気楽な生活が続いていくものだと心の底から信じている。

 そのために、宿命(さだめ)ともいうべき出来事をも突然起こった事のように感じ、慌てふためくことになるのだ……。






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