姫恋華〜ひめれんげ〜【改稿版】
「なら、少し体を動かして帰りましょう。竹刀を振れば、少し気分も落ち着かれましょう」
いつもなら決して自分からは勧めない事を言って、宗明は先に立って道場へと向かった。
「いいの?」
「私がお側にいる間は、ゆらさまのお好きになさっていいのですよ」
(御台さまがお聞きになったら、清水は甘すぎるとお叱りを受けるだろうか)
ちらっと思ったが、今はこの世間知らずな姫の気持ちを落ち着かせることが先決だ。
そう思い、宗明はゆらに手を差し出した。
「さあ。ゆらさま」
「うん……」
重ねられた手は、少し冷たい。そして、思っていたよりも随分小さかった。
(この方はまだあの時のまま、無垢で、幼い……)
無邪気なままで成長した彼女に、縁談など重過ぎる話だろう。
縁談とは何なのか。男女の間の事さえ、彼女には理解出来ないのではないか。
(私がこの方の相手として相応しければ……)
ふと思ってしまい、考えても仕方のないことだとかぶりを振った。
「三郎太」
「はい?」
「何処か、誰もわたしを知らない所に行けたらいいのにね」
「……」
二人はどちらからともなく、互いの手を握る手に力を込めた。
お互いを必要としていながら、心は違う方を向いているような覚束なさを感じながら。
いつもなら決して自分からは勧めない事を言って、宗明は先に立って道場へと向かった。
「いいの?」
「私がお側にいる間は、ゆらさまのお好きになさっていいのですよ」
(御台さまがお聞きになったら、清水は甘すぎるとお叱りを受けるだろうか)
ちらっと思ったが、今はこの世間知らずな姫の気持ちを落ち着かせることが先決だ。
そう思い、宗明はゆらに手を差し出した。
「さあ。ゆらさま」
「うん……」
重ねられた手は、少し冷たい。そして、思っていたよりも随分小さかった。
(この方はまだあの時のまま、無垢で、幼い……)
無邪気なままで成長した彼女に、縁談など重過ぎる話だろう。
縁談とは何なのか。男女の間の事さえ、彼女には理解出来ないのではないか。
(私がこの方の相手として相応しければ……)
ふと思ってしまい、考えても仕方のないことだとかぶりを振った。
「三郎太」
「はい?」
「何処か、誰もわたしを知らない所に行けたらいいのにね」
「……」
二人はどちらからともなく、互いの手を握る手に力を込めた。
お互いを必要としていながら、心は違う方を向いているような覚束なさを感じながら。