姫恋華〜ひめれんげ〜【改稿版】
数日後。
新之助は佐伯の屋敷にいた。
そこには、多くの浪人者が集っていた。
その中に混じり、新之助は屋敷の様子を窺っている。
一介の江戸詰の藩士の屋敷にしては随分豪奢な屋敷だった。
屋根瓦は真新しく、葺き替えたばかりのようだったし、庭にも珍しい異国の鳥が放し飼いにしてあり、どこのお大尽さまの屋敷かと思うような設えだった。
(随分羽振りがいいらしい……)
それが国許での一件と何か関係があるのか。
その報酬でこのような暮らしぶりをしているなら、何とも腹立たしいことだと新之助は思った。
集う浪人者たちはと言えば、無精髭を生やし着物もよれよれな者から、恰好だけは身綺麗に整えて来ている者まで様々だった。
いずれも腕に覚えのある者ばかりだなのろう。
隣の者とにこやかに談笑しながらも、その目は鋭い光を帯びている。
(とにかく、採用されなければ意味がない)
新之助は静かに気を引き締めた。
「貴公は浪人ものか?」
突然声を掛けられた。
動揺を見せないように顔を向ければ、縦にも横にも体格の良い偉丈夫が立っていた。年は新之助よりも大分上のようだ。
「そうだが。それはそちらもだろう?」
「如何にも。だが、貴公には浪人者にしては違う気配を感じたのでな」
「……」
「まあ、まあ、睨むな。若い者は喧嘩っ早くていけない」
新之助はふっと視線を外し、呼び出しの声に釣られたふりをして、その場を立ち去ろうとした。
「怒るなって。それがしは久賀と申す。貴公は?」
「……風間」
「そうか。風間か。お互い受かれば良いがな」
「……時間のようだから」
「まあ、待てって。風間。知っておるか?」
初対面。それもこんな場所だというのに馴れ馴れしい。
「……話し相手が欲しいなら、他を当たってくれ」
「つれなくするなって。某は貴公を気に入ったのだ」
何処に気に入る要素があったのか。
新之助は半ば苛っとしながら、久賀と名乗った浪人者を睨んだ。
「だから、すぐ睨むんじゃないって。分かった。風間は浪人になったばかりなのだな?いいか、風間。浪人というものは、常に控えめに目立たぬよう謙へりくだっておらねば、世を渡ってゆけぬぞ」
どうして、浪人としての心得など教わらねばならないのか。
(いい加減にしてほしい)
新之助は佐伯の屋敷にいた。
そこには、多くの浪人者が集っていた。
その中に混じり、新之助は屋敷の様子を窺っている。
一介の江戸詰の藩士の屋敷にしては随分豪奢な屋敷だった。
屋根瓦は真新しく、葺き替えたばかりのようだったし、庭にも珍しい異国の鳥が放し飼いにしてあり、どこのお大尽さまの屋敷かと思うような設えだった。
(随分羽振りがいいらしい……)
それが国許での一件と何か関係があるのか。
その報酬でこのような暮らしぶりをしているなら、何とも腹立たしいことだと新之助は思った。
集う浪人者たちはと言えば、無精髭を生やし着物もよれよれな者から、恰好だけは身綺麗に整えて来ている者まで様々だった。
いずれも腕に覚えのある者ばかりだなのろう。
隣の者とにこやかに談笑しながらも、その目は鋭い光を帯びている。
(とにかく、採用されなければ意味がない)
新之助は静かに気を引き締めた。
「貴公は浪人ものか?」
突然声を掛けられた。
動揺を見せないように顔を向ければ、縦にも横にも体格の良い偉丈夫が立っていた。年は新之助よりも大分上のようだ。
「そうだが。それはそちらもだろう?」
「如何にも。だが、貴公には浪人者にしては違う気配を感じたのでな」
「……」
「まあ、まあ、睨むな。若い者は喧嘩っ早くていけない」
新之助はふっと視線を外し、呼び出しの声に釣られたふりをして、その場を立ち去ろうとした。
「怒るなって。それがしは久賀と申す。貴公は?」
「……風間」
「そうか。風間か。お互い受かれば良いがな」
「……時間のようだから」
「まあ、待てって。風間。知っておるか?」
初対面。それもこんな場所だというのに馴れ馴れしい。
「……話し相手が欲しいなら、他を当たってくれ」
「つれなくするなって。某は貴公を気に入ったのだ」
何処に気に入る要素があったのか。
新之助は半ば苛っとしながら、久賀と名乗った浪人者を睨んだ。
「だから、すぐ睨むんじゃないって。分かった。風間は浪人になったばかりなのだな?いいか、風間。浪人というものは、常に控えめに目立たぬよう謙へりくだっておらねば、世を渡ってゆけぬぞ」
どうして、浪人としての心得など教わらねばならないのか。
(いい加減にしてほしい)