もっと★愛を欲しがる優しい獣

「はい、これ。申請書」

「……どうも」

(期日前に提出するなんて珍しい……)

総務部のカウンターの上には佐伯が持ってきた出張申請書が並べられていた。

出張に行く場合、新幹線や飛行機のチケット、宿泊先の手配は代理店経由で総務部が一括して行っている。

出張申請書は出張に行く5日前までに総務部までに提出することになっているが、忙しい営業部の人達は出掛ける直前になって、バタバタと駆けこんでくることも少なくない。

佐伯は完全にこのタイプだった。

だから、いつも私にお願いと称して無理をきかせてきたのだ。

(まあ、早く持ってきてくれる分には文句はないんだけどね)

受け取った書類に不備がないことを確かめると、念の為に尋ねる。

「行きは飛行機、帰りは新幹線で良いの?」

「渡辺」

いつのまにか佐伯の顔が目の前に迫ってきていたことにおののいて、ついその場から後ずさる。

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