もっと★愛を欲しがる優しい獣
「送ってくれてありがと。ここでいいわ」
正直に楽しかったとは言えない食事を終えると、佐伯は私を一人暮らしのアパートの近くまで送ってくれた。
「そこは“お礼にコーヒーでもいかが?”じゃないのか?」
「狼を自分の家に招き入れるような真似はしないの」
「本当に可愛げのない女だな、渡辺は」
「うるさい」
いつも通りの憎まれ口の応酬に少し安心する。やはり、私達は喧嘩仲間という関係性が似合っている。
しかし、今日ばかりは聞かずにいられなかった。
「どうして私を食事に誘ったの?」
亜由を差し向けて逃げられないようにしておいたくせに、何も目的がないなんて言わせない。
佐伯は口の端を上げて笑うと、昼間のように私の顎を掬い上げ唇を撫でた。
「どうせ、お前の口紅を剥ぎ取る男は俺だけなんだ。いちいち変えるなよ」
人気のない路地裏で噛みつくようなキスが何度も降ってくる。
「じゃーな」
佐伯は己の唇についたスウィートローズを拭うと、完全に腰砕けになった私を残して帰っていった。
「何よ……それ……」
素直になれないのは私なのか、あいつなのか。
スウィートローズのルージュは何も教えてくれなかった。