もっと★愛を欲しがる優しい獣
(あ、佐藤さんだ)
佐藤さんは精一杯手を伸ばして掲示板に貼られているポスターを剥がそうとしていた。
傍に置いてある踏み台を素直に使えば事は簡単に進むのに、一生懸命な彼女は気づかない。
むぅと顔をしかめながら爪先立ちをする佐藤さんの背後に立つ。
顔の横から手を伸ばせば、ポスターを留めていたマスキングテープは簡単に剥がれた。
宙を掴んだ彼女の身体はよろめいて、ぽすっと俺の胸の中に収まる。
「どうぞ」
そのままの態勢でポスターを手渡せば、彼女は口早に言った。
「すいません!!ありがとうございました!!」
頭を下げて廊下を駆けて行く姿を見て、ため息がこぼれる。
……この距離を埋めたくて堪らないのに、このままだと埒が明かないではないか。