もっと★愛を欲しがる優しい獣
その19:噂
最初に異変を感じたのは出勤ついでに近所のゴミ捨て場にゴミを捨てに行った時のことである。ゴミ捨て場では朝も早くから、奥様達がかしましく井戸端会議に華を咲かせていた。
「おはようございまーす」
私はいつものように挨拶をするとゴミ捨て場の烏除けのネットをまくり上げ、えいっと勢いをつけてゴミを放り投げた。なにせ家族7人分のゴミなのでその量たるやちょっとした重労働なのである。
ふう、重かったと息をついて額に薄らとかいた汗を拭っていると、先ほどまで大きな笑い声が聞こえていた井戸端会議中の皆さんがジイットこちらを見ていることに気がついた。
「あの……何か?」
不思議に思って声をかけると、奥様達はさっと目を逸らしそそくさと逃げるように立ち去って行ったのだ。
(何だったのかしら……)
近所の奥様達とは井戸端会議に一緒に参加するほど親しいわけでもないが、顔を合わせれば世間話や天気の話題くらいはする。それが、今日は挨拶どころか目も合わさなかった。
(もしかして、今日は燃えるごみの日じゃないとか?)
不安に思ってネットをめくり上げ他の人のゴミ袋を見てみるが、そこにはくっきり“燃えるゴミ”の字が。なーんだ間違ってないじゃんと安心したのも束の間のことである。
(そうだ!!今日の朝の雑用当番、私だったわ!!)
総務部の女性社員が日替わりで行っている朝の雑用当番のことを思い出すと、一息つく間もなく駅まで全速力で走ることとなった。
雑用当番のことにすっかり気を取られて、ゴミ出しの異変のことは頭からすっぽり抜け落ちてしまったのだった。