もっと★愛を欲しがる優しい獣
ピンポーンとインターホンが鳴ったので、渾身の一作であるグリンピース餡かけを号泣しながら口に運ぶひろむの監視を早苗に任せ私は玄関へと向かった。
「あれ田中さん、どうされたんですか?」
「亜由ちゃん、ちょっと良いかしら……?」
玄関を開けると、そこにいたのはお隣の田中さんの奥さんであった。50代過ぎの気さくな方で私とはおかずのお裾分けを頻繁に行なう仲だ。両親不在の我が家のことを機に掛けて下さる世話好きなおばちゃんである。
「見間違いだとは思うんだけどね。ご近所中の噂になっているのよ」
田中さんは頬に手をやり、ふうっと力なく息を吐いた。いつになく深刻そうな表情である。
「なにかあったんですか?」
「この間の夜ね、亜由ちゃんと男の人が……その……路上で……ふしだらな行為をしているのを見たっていう人がいてね……」
「え!?」
ふしだらな行為って……。
「ほら、亜由ちゃんの所はまだ小さい子供もいるでしょ?留守を預かる亜由ちゃんの素行はいかがなものかって一部の人が騒いでいるみたいで……。いやね!?あくまで噂だから私は気にしちゃいないよ!?」
田中さんの話を聞いて、私は顔面が蒼白になった。
……噂には心当たりがある。
鈴木くんを引き留めようとして、逆にキスで口を封じられてしまった一件のことだ。
やだ……。誰かに見られていたんだ……。