もっと★愛を欲しがる優しい獣
その20:名探偵の活躍
噂の発信源を突き止めたと田中さんから連絡があったのは次の日の夜のことであった。
「町内会長の奥さん?」
「そう、噂の出所は意外や意外、あの町内会長の奥さんだったのよ」
田中さんはテーブルに頬杖をついてお茶うけに出したおせんべいをガシリと齧りながら言った。
「調べたらすぐ分かったわ。あの人、誰彼かまわず吹聴してたみたいね」
予想外の人物の名前が出てきたことに驚きが隠せず、私は確認するように尋ねた。
「でも、町内会長の奥さんって誰かに積極的に何かを言い触らすタイプには見えませんよね……」
町内会長さんの奥さんは地域の集まりに熱心に取り組む真面目なタイプだ。
田中さんとは違った意味での世話焼きで、近所に越してきたばかりの人にゴミ出しのルールを教えたり、子供達の悪戯に目を光らせたり、今時珍しい厳格な人なのだ。
情報通のおば様というのはどこにでもいるものだが、町内会長の奥さんには当てはまらないように思える。
むしろ、根も葉もない噂は秩序を乱すと嫌がりそうだ。
……まあ、今回のケースは根も葉もあるんだけど。
私は己の行いをやや反省しながら、空になった田中さんの湯呑にお茶を注ぎ足した。