もっと★愛を欲しがる優しい獣
「誰か来てたの?」
テーブルの上に置いたままになっていた来客用の湯呑をシンクに置くと、鈴木くんは夕飯のメニューを確かめるようにコンロの上の鍋の蓋を開けた。
「うん、さっきまでお隣の田中さんが」
「へえー。お隣さんかあ。俺、結構佐藤さんの家に通っているけどまだお隣さんと会ったことないなあ」
鍋の中身が肉じゃがであることに気を良くしたのか、鈴木くんの顔が綻ぶ。鈴木くんは分かりやすくお袋の味系の食事に弱いらしい。
「鈴木くんがいつも美味しいって食べている梅干しもお漬物もお隣の田中さんから頂いた物よ?」
「へー。そうなんだー」
そう言ってつまみ食いをしようとした手をぺシンと叩いて、ダイニングテーブルで待つように指示をする。
鈴木くん用に取っておいたおかずを冷蔵庫から出し、ご飯をお茶碗によそいながら考えるのは、例の件だ。
悪評の出所が分かっても、対処のしようがないのが問題なのである。
ご近所スキャンダルなんて日頃から娯楽が少ない主婦層にとっては格好の餌食だ。
張り巡らされたネットワークを経由して既にあちこちに噂は広まっている。