もっと★愛を欲しがる優しい獣
「それにしても、どうして鈴木くんが資料室にいるの?」
「実は渡辺さんに頼んだんだ。佐藤さんを呼び出してくれって」
「どうりで……こんなに閲覧希望があるなんておかしいと思ったわ」
一気に10冊、しかもジャンルはてんでバラバラ。おそらく足止めさせるつもりで、椿が適当に見繕ったのだろう。
(もうっ!!椿までグルになって……)
あとで、うんとお小言を言ってやろうと心に決める。もちろん、鈴木くんも例外ではない。
「こんなところで油売ってたらダメでしょう?」
勤務中に女性社員と呑気におしゃべりしているなんて、エリートサラリーマンの名が泣く。
「佐藤さんにどうしても話したいことがあってさ」
「話……?」
鈴木くんは急に真顔になると、その場で深々と頭を下げたのだった。
「ゲームの件は本当にすいませんでしたっ!!反省したので出禁を解いてください!!」
もう限界、と呟くとぷしゅうと空気の抜ける音とともに、鈴木くんが私の肩に額を押し付けすりすりと擦り寄ってくる。
「佐藤さん家に行けないなんて拷問だよ……」
しおらしく許しを請う姿は、スーツを着こなす王子モードと相まって妙な同情を誘う。
……ここまで弱っている鈴木くんは珍しい。
出禁を言い渡して約10日。わずかな期間とはいえ、堪えたらしい。