もっと★愛を欲しがる優しい獣
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「おーい。渡辺!!」
会議室の点検を終えて総務部のフロアに戻ってきた私を呼び止めたのは、新人研修で一緒だった佐伯だった。
「お前、総務部だよな?」
「そうだけど……」
「ちょっと頼まれてくれよ。総務部の佐藤さんを紹介して欲しいって男がいるんだけど」
そう言われて、私は思わず眉をしかめた。
「”佐藤”ってどの”佐藤”よ」
「え?”佐藤”ってもしかして複数いるのか?」
「知らなかったの?」
我が総務部には佐藤という姓を持つ人間は4人もいる。たまたま佐藤ばかりが集まってしまったわけだが、紛らわしいと社内でも不評だ。
さて、佐伯が紹介して欲しい佐藤とは一体誰のことだろう。
……さすがに、男性である部長は違うと思うが。
佐伯は予想外の出来事にも慌てず明るく言ってのけた。
「都合がつけば、誰でも良いよ!!大事なのは総務部の”佐藤”さんってことだからな!!」
じゃあ、と手を振って立ち去っていく男の背中を呆れながら見送る。
(……なんていい加減な奴なんだろう)