もっと★愛を欲しがる優しい獣
「あ……。雨……」
厚みを増した雨雲からポツポツと雨を降ってきたのは退社直後のことだった。
手のひらに感じる雨粒の大きさから、走って駅まで行ったとしてもただではすまないだろう。
(あ……れ……?)
傘を差そうとバッグの中を漁るが、今朝方確かに入れたはずの折り畳み傘は見当たらなかった。
出掛ける際にシューズボックスの上に置き忘れたのだということに気がつくまで、そう時間はかからなかった。
やってしまったと、自分で自分が嫌になってしまう。
(上の空も大概にしないとな……)
仕方なく置き傘を取りに会社に戻り、苛立ち紛れにエレベーターの呼び出しボタンを連打する。
……いい加減調子を取り戻さないとまずい。
傘を忘れるくらいなら可愛いものだが、いつか仕事でとんでもないミスをしでかしてしまいそうで怖くなる。
そうやって猛省しながらエレベーターの到着を待っている私に、声をかける人物がひとりだけいた。