もっと★愛を欲しがる優しい獣
しかし、そんな雑然としていた渉の部屋の中にも異変が起こっていた。
窓際の一角にはダンボールが積まれ、海外製のビールの空き瓶が並べられていた棚は綺麗に片付けられ、賑やかな部屋に似つかわしくない空白地帯が生まれ始めている。
「悪いな、わざわざ取りに来てもらって」
「元々、自分のだからな……」
今日、俺が渉のアパートに来た目的は貸していたゲームを九州に行く前にまとめて返してもらうためだ。
渉の九州行きが決まったのは本当に急なことだった。
家業を継ぐことになり退職することになった先輩の代わりに、急遽決まったのだ。
それは当然ながら渉本人にも予測できないもので……。
「そこにまとめといた」
「……おう」
……あいつの今の心境がどんなことになっているのか、俺にも分からなかった。
(サラリーマンの辛いところだよな……)
しみじみと思いながら、渉が指差したテレビ台の脇に置いてあった紙袋の中身を確認する。
「渉……」
「ん?」
渉は俺が買ってきた缶ビールのプルタブを開けながら首を傾げた。
(ん?じゃねーよ!!この野郎!!)
俺は顔を引きつらせながら、ゲームソフトのパッケージと本体ソフトを渉に見せた。