もっと★愛を欲しがる優しい獣
「うっそ……。ホントにできてる……」
「俺が本気を出したらざっとこんなもんだろ~」
提出用にプリントアウトしたレポートを鼻高々に掲げると、渡辺は悔しさのあまりわなわなと震えだした。
真面目に取り組んでいた自分よりも、明らかにやる気のない俺の方が先にレポートを書き終わったことに、なおさら納得ができないのだろう
「みんな終わったみたいだし、早く帰ろうよ~」
今にも喧嘩が始まりそうな気配を察した佐藤が、角の立たないように帰宅を促す。
「飯でも食ってくか~?」
レポートを無事に提出し3人で駅まで行く道すがら、俺は佐藤と渡辺を食事に誘ってみた尋ねてみた。
季節は初夏。
金曜の夕方はまだまだ明るく、このまままっすぐ帰宅するのは惜しいような気がしたのだ。
「ごめん、今日はダメなの」
渡辺はごめんと手を合わせるとちらっと腕時計で時間を確認した途端、にわかに慌て始めた。
「じゃあ、私急ぐから!!」
別れの挨拶もそこそこに、渡辺は俺達を残して駅まで走っていったのだった。
「あんなに急いでどこに行くんだ、あいつは……」
「彼氏のところじゃないかな?先週のデートは中止になったらしいし」
行き先を予想する佐藤があまりにさらっと言うものだから、うっかり受け流すところだった。