もっと★愛を欲しがる優しい獣
「珍しいな、渡辺が顔を出すなんて」
騒いでいる同期達を押しのけるようにして渡辺の隣に腰掛けて、その辺にあったグラスにビールを注ぐ。
居心地悪そうにしていた渡辺は、見知った顔がやってきたことに安心したのか安堵のため息をついていた。
「たまにはこういうのもいいかなあって思ってきたんだけど……やっぱりなんだか落ち着かないね」
そう言って作り物のような笑顔で微笑む渡辺を見て、違和感を覚える。
新人研修の時にはあんなに生き生きとしていたのに、まるで覇気がなくまるで別人のように表情が暗い。
営業部と総務部は階を違うため、同じ支社に配属になったとはいえ用がなければ滅多に会うことはない。
仕事を覚えることに必死だったせいか、たまに廊下や食堂ですれ違っても渡辺の様子がおかしいことに俺は今に至るまでちっとも気が付かなかったのだった。
(何が……あったんだ……?)
胸を埋めつくす不安を拭えないまま、情報交換会はお開きとなったのだった。