もっと★愛を欲しがる優しい獣
二次会に行く派とそのまま帰る派が入り混じって出口に向かう最中、俺は椅子の背もたれに置き忘れたベージュ色のマフラーを発見すると、二次会には行かずに帰ると言っていた渡辺の後を急いで追いかけて行った。
「お~い渡辺!!忘れ物!!」
渡辺はこの寒空の下、首を竦めて縮こまるようにして繁華街を歩いていた。
12月を過ぎてコートだけでは寒さを凌ぎきれない夜が続いているというのに、防寒着を忘れていくなんてアホの極みである。
マフラーを持って追いかけてきた俺はさぞやありがたがってもらえると思いきや、渡辺は困ったように言った。
「それ、もういらないの。捨てといてくれる?」
「いらないってお前……」
このマフラーはどう見ても、捨てるに値するほどみすぼらいとも安物にも思えない。それどころか手触りの良いカシミヤの上等な代物だった。
俺が問う前に渡辺は自ら進んで、理由を話した。
「彼氏からもらったやつだから、使いたくないのよ」
“彼氏”という単語を口に出した途端、渡辺の顔にほの暗い影が差した。
人からもらったものを、それも彼氏からもらったものを粗雑に扱う奴ではないことを俺だって知っている。