もっと★愛を欲しがる優しい獣
「何か……あったのか?」
「……二股かけられてたの」
……二股。
まあ、想定の範囲内……よくある話だ。
ただの自然消滅なら、渡辺がこれほど辛そうにしている説明がつかないからだ。
ポッとでのよその女にあることないこと吹き込まれ、昔から付き合っていた彼女に別れを告げるなんて禄でもない男だ。
「今度、結婚するんですって」
おっと……二股だけでもムカつくのに、その上結婚とは相手の男は相当な馬鹿だったらしい。
「私と付き合っていた時間って、一体何だったんだろうね……。なんかバカみたいだよね!!」
唇をこれでもかと噛みしめ無理に笑い飛ばそうとする姿が逆に痛々しかった。
人は愚かであり、理屈通りにいかないもので、時に裏切られることだってある。
もし、付き合っていた時間と愛情が比例するというのなら、なぜこうも簡単に手放してしまえるのだろうか。
そのせいで……渡辺はひどく傷ついていた。
真面目な奴であればあるほど、こういう事態には脆いのだ。
自分に落ち度はなかったのか、相手の心が離れていることになぜ気が付かなかったのか……。
たとえ相手が悪くても自分のせいだと、思い込んでしまう。
無用のたらればを何度も繰り返し、そのたびに自己嫌悪に陥る姿はまるで……。