もっと★愛を欲しがる優しい獣
その34:アプリコットランデブー
朝起きてカレンダーの日付を見ると、とうとうこの日がやって来てしまったとため息をつく。
今日は佐伯の送別会。
泣いても笑っても、あいつは今日を最後にここからいなくなってしまう。
一方的にひどい言葉を吐いてなじってからというもの、佐伯からの連絡はぷっつりと途絶えてしまった。
自分で終わらせたくせに……寂しく思う資格なんて私にはないのに、それでもまだヒリヒリと胸が痛むのは、あの時佐伯がくれたセリフが忘れられないから。
“頼むから……勝手に終わらせようとするな”
(変な顔……)
姿見におでこを打ち付けてパンと気合を入れるように顔を叩けば、手加減を忘れて悶絶してしまう。
鏡に映る自分の顔の酷さには本当に呆れるばかりだ。
いっぱい泣いて、いっぱい後悔した。
……もう十分でしょう?
今日ぐらいは笑って佐伯を送り出してやりたい。
祈るような願いを込めると、私は新天地での活躍とお詫びの意味を込めて買ったネクタイを、そっとバッグの中に忍ばせたのだった。