もっと★愛を欲しがる優しい獣

一杯目のドリンクが運ばれてきてひと心地着くと、今度は周りの会話が気になり始めて、私は遠巻きに佐伯の様子を伺った。

……それにしても。

(佐伯って本当に慕われていたんだなあ……)

先ほどから佐伯の元には、代わる代わる色んな人が酒を酌み交わしにやってくる。

(あ、頭わしゃわしゃされてる)

先輩らしき男性陣は佐伯と肩を組んで、記念撮影を始めている。

かと思えば、今度はひときわ賑やかな女性の集団が前に出てくる。容姿端麗がご自慢の受付嬢達である。

(昔、合コンしたって聞いたけど……)

どさくさに紛れて腕を組むなんてちょっとあざといんじゃないの……!?

なんとなーく面白くない気分になったのも束の間のこと。佐伯を取り囲んでいた受付嬢のうち、一番若い子が急に泣き出したのだ。

「さ、佐伯さんがいなくなっちゃうなんて……!!嘘みたいで……っ!!」

……佐伯に片思いでもしていたのだろうか。

素直にわあわあと泣く姿はいじらしくて、素直に好感が持てた。

佐伯はその子の頭をポンポンと優しく撫でると、先輩と思しく女性達に彼女の身柄を引き渡していた。

……私も何もかもさらけ出して泣いていれば、ああやってあやしてもらえたのかしら。


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