もっと★愛を欲しがる優しい獣
「総務の渡辺さんだよね?」
「え!?はい……」
物思いにふけっていたところに急に声を掛けられたので、一瞬反応が遅れてしまった。
(この人誰だっけ?)
名前が出てこないことを相手の男性は即座に見抜いて自己紹介をする。
「情報システム部の明智だよ」
情報システム部の明智さんと聞いて、ようやく顔と名前が一致した。
総務部管轄の資料室の蔵書管理について、情報システム部に相談しに行ったことがあった時、熱心に話を聞いてくれたんだ。
「ひとりだと退屈でしょ?こっちで飲まない?」
本当はそんな気分になれなかったけど、せっかく声をかけてくれたのに断るのも感じが悪い気がして席を移動する。
確か、明智さんは私より3年上の先輩だったはず。細身の黒フレームの眼鏡がそこはかとなく知的な印象を醸し出している。
っていうか佐伯ってば営業部のくせに、情報システム部の人とまで懇意にしていたのか。
「まさか佐伯が九州に行くとは思わなかったよね」
「そうですね」
気を遣って共通の話題を振ってくれる大人の余裕に敬意を表するように、素直に同意する。