もっと★愛を欲しがる優しい獣
(び、びっくりした……)
誰もいない安全地帯にたどり着くやいなや、私はへなへなと脱力してしまった。
まさか、このタイミングで口説かれるとは思っていなかったのだ。
(もう帰ろうかな……)
なんか口説かれるし……。佐伯ともまともに話せそうにないし……。
トイレから出るころには完全に諦めムードになってしまい意気消沈で通路を歩いていると、突如何者かに口を塞がれる。
「ふ!?」
「よっし、捕獲完了」
底抜けに明るい佐伯の声が背後から聞こえて仰天する。
(さ、佐伯!?)
まるで荷物のようにひょいと身体を担ぎ上げられ、足をばたつかせて抵抗する。
「じゃ、鈴木!!あとよろしく!!」
(鈴木くんまでグルなの!?)
佐伯の行動を咎めようとしないってことは、二人は明らかに共犯である。
「はいはい。あ、これ。渡辺さんのバッグ」
鈴木くんはすべて心得ていたかのように、私のバッグを放り投げた。
佐伯は見事に私のバッグをキャッチすると、すたこらさっさと出口を目指す。
「え!?ええええ!?」
戸惑う私を意に介さず、鈴木くんがにこやかに手を振っている。
「頑張れよ~」
しゅ、主役なのに!?いいの!?