もっと★愛を欲しがる優しい獣

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「ほら、やるよ」

九州に旅立つ渉にくっついて空港まで見送りにやってきた私は、突然渡された手のひらサイズの小包に戸惑っていた。

「なにこれ?」

「……いいから開けろよ」

妙に急かすものだから、余計に首を傾げたくなる。

(何だろう?)

不思議に思いながらその場で包みを開くと中から出てきたのは、毎日使用している見覚えのある形だった。

……黒々とした艶やかなフォルムをしたルージュだ。

「こ、れ……」

「俺が戻ってくるまでのお守りだ。貸せよ、塗ってやるから」

最初からそのつもりだったのか、用意周到なことに渉はクリーナータイプのメイク落としまで準備していた。

渉は私の唇を丁寧に拭くと、今度は上を向くように指示してきた。

キャップを外したスティック型の容器から出てきたのは、鮮やかなスカーレットだった。

「動くなよ」

キスでもされるのかと思うほどの距離で唇を熱っぽく見つめられると、ちょっと何とも言えないロマンチックな気分にされてしまう。

スカーレットのルージュは渉に資料室でキスされたことをどうしたって思い出させる。

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