もっと★愛を欲しがる優しい獣
「これでよし」
渉は満足げにそう言うと、公衆の面前だというのになんの躊躇もなく私にキスをした。
塗ったばかりのルージュがすべて剥ぎ取られそうな息もつかせぬほどの情熱的なキスは、確かに私が待ち望んでいたものだった。
「このルージュを他の男に剥がされたら許さねえからな」
「バカ……」
他の男に目が行くはずないじゃない。
なんでそんな簡単なことがわからないのよ……!!
互いにもどかしい思いをしていることはキスから伝わるのに、思いの丈を言葉で全てぶつけ合うには残された時間はあまりに短い。
別れの時間がやってくる前に、私も渉に渡さないといけない物がある。
「これ……」
私はそう言っておずおずとバッグからネクタイの箱を取り出した。