もっと★愛を欲しがる優しい獣

「本当は送別会で渡そうと思って昨日からずっと持ってたの。ネクタイなんだけど良かったら使って?」

「さんきゅ」

「う、浮気したらそのネクタイごと首をもぎ取ってやるんだから!!」

「うわ……!!おっかない女!!」

「なによっ!!」

冗談めかしてからかう渉を懲らしめるために拳を振り上げようとしたその時、搭乗時間が迫っていることを告げるアナウンスが入る。

僅かな沈黙の後、ささやかな抱擁を交わす。

……次にこうして会えるのはいつになるだろうか。

「じゃあ、行ってくるな」

「行ってらっしゃい」

小さく手を振りながらゲートの向こう側に消えていく渉の背中を最後まで見送る。

……結局、私は“待ってる”も、“行かないで”も言わないことにした。

まだ、始まったばかりの私達の関係に絶対の約束も束縛の言葉は似合わない。

ただ、信じていればいい。

渉がくれたスカーレットのルージュが確かな自信をくれる。

本当はあの日以来今度はいつこのルージュを剥ぎにやって来るのかと待ちわびていたって言ったら、渉は笑うかな……?

それとも、早く言えよと怒るかしら?

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