もっと★愛を欲しがる優しい獣

「お土産も買ってきたから、あとで一緒に食べようね。お兄ちゃん達はキッチンにいるのかな?」

鈴木くんはいつもの調子で尋ねたわけだが、抱き上げられたひろむの様子がどこかおかしい。

「お兄ちゃん、誰?」

ポカンと首を傾げ、まるで見知らぬ他人にでも会ったような態度である。

「誰って……。鈴木くんに決まってるじゃない」

「にせもの……?」

ひろむの表情はますますおかしくなり、苦虫をかみつぶしたような奇妙なものに変わる。

いやいや、偽物じゃないから。まごうことなき本物だから。と、突っ込もうとしてハタと気が付く。

(そっか……ひろむと陽、恵の双子は、まだこっちの姿を見たことがないんだわ)

我が家に来る鈴木くんといえば、瓶底眼鏡をかけていて、着ているものはいつもヨレヨレである。

コンタクトをつけてシャツにジャケットを羽織っているオシャレな姿は、一度もお目にかかったことがないはずである。

ようやく合点がいって、慌ててフォローを入れる。

< 253 / 271 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop