もっと★愛を欲しがる優しい獣
「うぎゃっ!!」
鈴木くんの悲鳴が聞こえてきたのは、アクセサリーを外してドレッサーに置いた数秒後の事だった。
階段を駆け下りて洗面所の扉を開け放ち、洗面台の前で立ち尽くす鈴木くんに声をかける。
「どうしたの!?」
「水が……」
そう訴える鈴木くんの頭からはポタポタと雫が垂れており、髪はぐっしょりと濡れていた。
コンタクトレンズを外すだけで、こうも濡れるはずがない。当然犯人は別にいて、それは直ぐに判明したのだった。
「にせもの!!」
玩具の水鉄砲を構えて登場したのは、先ほど鈴木くんを偽物扱いしたばかりのひろむである。
お風呂で遊ぶときに使う1メートルほどしか水が飛ばないほんの子供だましのような鉄砲の照準は再び鈴木くんの頭に合わせられている。
「こらっ!!人に向かって使っちゃダメっていつも言ってるでしょ!!」
「げ、お姉ちゃん!!逃げろ~~!!」
少し強めに叱りつけると、ひろむはさっさと逃げ出したのだった。逃げ足が速くなったのは陽にコツでも習ったのだろう。