もっと★愛を欲しがる優しい獣
「電車が止まっているみたいだから、会社の近くでつかまえたんだ」
「帰れなくて困っていたの」
そうだと思ったと言って、鈴木くんはタクシーの中に私を招き入れた。
並んでいる人たちを横目に、タクシーはすいすいとロータリーを抜けて車道を走って行く。
「家は大丈夫?」
「うん、樹がいたから」
「それにしても、すごい雨だね」
「そうね」
タクシーの窓には絶え間なく雨が打ち付けていた。雨水が作るカーテンがゆらゆらと波打っている。車内には時折、ヘッドライトの光が閃いた。
「冷たい」
指を絡めるように手を握られれば、私の体温は急上昇する。
「雨だったから」
理由を問われたわけでもないのに、言い訳するように答える。
密室に響く雨音。ワイパーが動く音。そのどれもが日常にふいに訪れる非日常を感じさせた。
鈴木くんは窓枠に肘をついて、外の様子を眺めていた。
私ばかりが彼を意識してしまって、時々ひどく憎らしく思える。