もっと★愛を欲しがる優しい獣
「佐藤先輩、これチェックして頂けますか」
「うん、分かった。預かるね」
声を掛けると佐藤先輩はパソコンの画面を睨むのをやめて、私から書類を受け取った。
「どうしたんですか?難しい顔して」
いつも朗らかな佐藤先輩にしては険しい顔つきをしていたので、気になって尋ねてみる。
「……どうも計算が合わなくて」
(……パソコンなのに?)
ディスプレイに映し出された計算値と、手元に置いてある申請書は確かに値が一致していない。
パソコンに標準でインストールされている表計算ソフトに落ち度はない。
大概の問題は使用する私達にある。
いいですかと、代わりにマウスを操作して間違っている部分を指摘する。
「ここ、計算値に選択されてないですよ」
「うわ、ありがと!!関谷さん」
佐藤先輩は本当に有難がって言うものだから、私だって恐縮してしまう。
「いいえ、どういたしまして」
……こんな風に自分の恋も上手く行ったらよかったのに。
目的の書類を無事にチェックしてもらった私は、自分の席に戻ってマグカップからコーヒーを一口飲んだ。
(……苦い)
本当のことを言えば、コーヒーは苦手だった。
それでも懲りずに飲み続けているのは、あの人との拙い繋がりを求めているから。
佐藤先輩はきっと私がこんなことを考えているなんて、想像もしていないだろう。