もっと★愛を欲しがる優しい獣

「“初めて”話した時のことを覚えている?」

「……初めて?」

私の知る限り、鈴木くんとまともに会話をしたのは廊下で愛を告白された時が最初のはずだ。

同じ職場で仕事をしている訳だから、挨拶程度は交わすと思うが……。

それとも、鈴木くんははっきり覚えているということなのか。

「ごめんなさい。分からないわ」

「思い出してくれたらご褒美をあげるよ」

鈴木くんはそう言って強い力で私の身体を己の膝の上に乗せた。

ふらついた身体は自然と鈴木くんの首に抱き付くことでバランスを取ろうとする。

「ご、ご褒美?」

「そう、ご褒美」

……間近に迫る唇はまるでキスをせがんでいるようだった。

これ以上のご褒美なんてあるの?

喉から出かかって言うのを途中でやめた。

羽織っていたストールで顔を隠しながら、触れるだけの甘いキスを繰り返す。

“私を月に連れてって”

……彼なら本当に月まで連れて行ってくれそうだった。

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