もっと★愛を欲しがる優しい獣
(あんたはどう見てもおふざけナンパ系でしょうが!)
というかなぜこのタイミングで自分を引き合いに出した!バカなのか?バカなのね!よし、わかった!
いい加減バカの相手をすることに疲れ果ててきたので、お暇を頂こう。
「もういいでしょ。分かったら離し……」
「あの男なのか?」
探るような瞳は、既に答えを知っていた。
途切れた会話が佐伯の答えにある種の信憑性を持たせていく。
「だったら……どうだっていうのよ?」
おどけて笑って見せても、佐伯はピクリとも反応しなかった。ただ、黙って私を見つめている。
……そんな目で見ないで。
「椿……」
耳元で名前を呼ばれて、ビクッと身を震わせる。
頭の中で佐伯の声がこだましていく。
“椿……”
……それは、あの日と同じだった。