もっと★愛を欲しがる優しい獣
次の瞬間、佐伯が動いた。
ぐいっと顎を持ち上げられたかと思うと、あっという間に私の唇を己の唇で塞ぐ。
“慰めてやろうか?”
弱っている女を誘惑するこの男が私は嫌いだ。そして、まんまと誘いに乗った弱い自分も大嫌い。
彼氏をどこぞの女に寝取られた挙句、結婚を宣言されたくらいで泣きじゃくって佐伯に縋ったことなんてもう忘れたいのに。
……こいつの顔を見るたびに思い出してしまう。
まるで壊れ物を扱うかのように優しく触れる手も。身体の芯が蕩けるような囁きも。
すべて記憶の奥底に封じ込めておければよかった。
そうすれば、こんな目に遭わなくて済んだ。
どんなに拒絶しようとしても一度得た甘い蜜を、この男は決して逃がさない。
唇は吐息をすべて掬い取るように何度も何度も往復していく。
どさくさに紛れてブラウスの上から胸の膨らみにまで手を伸ばされれば、たまらず声にならない叫びが漏れ出そうになる。
誰かが資料室に入ってきたらと思うと気が気でない。
それが、佐伯の暴走に更に拍車をかけている。
ギブ、ギブと胸板を叩いてもがく私を更に押さえつけるようにして、佐伯は思う存分ひとの唇を吸い尽くした。
ようやく満足したのか、心の中の罵詈雑言が届いたのかはわからないが、解放された時には嬉しいような悲しいような、情けない気持ちになった。
(食べられるかと思った……)
佐伯はルージュが剥がれた私の唇を親指でなぞると、何事もなかったかのようにヘラリと笑う。