もっと★愛を欲しがる優しい獣
「もしかして、あの日のこと思い出しちゃった?」
「知らない」
火照った唇と赤くなった頬を誤魔化すようにそっぽを向く。
思い出すもなにも忘れたことなんてない。
私はあの日……身を切られるように辛かったあの日、この軽薄な男に身を任せた自分をずっと恥じている。
あれは私のしでかした失態の中でも最低の出来事だった。
女性としてのプライドとか、男性に対する不信感とか、色々なものがごちゃ混ぜになって訳が分からなくなった私の心の殻を、一枚一枚剥がして、ふわふわの真綿を扱うように繊細な手つきで、包んで、温めたのは佐伯だ。
“俺のことだけ考えてろ”
熱いキスと抱擁は、私が疲れて眠りにつくまで続いた。
次の日の朝、目覚めた時にはあいつは隣にいなかった。
ベッド脇のサイドボードにはホテル代と腫れた目を冷やすための冷えピタが置かれていた。
インテリ真面目系はともかく、律儀なのは事実かもしれないと思い直す。