もっと★愛を欲しがる優しい獣

「また、慰めてやろうか?」

「いいえ、結構です。間に合ってますから」

そう言って両腕を突っ張って、佐伯の身体を思い切り押し返す。

もう、弱い自分をさらけ出して身を任せたりしない。絶対に。

(早く次の人を見つけなきゃ)

……認めたくない。

こんなに軽くてヘラヘラした男の腕に抱かれて、安らぎを感じたなんて。

絶対に認めない。

どうせ他の女にも同じことを言っているに決まっている。

あわよくば再びベッドにお連れしようって魂胆なんでしょう?

そうでなければ、会社でこんなに簡単にキスなんてしない。

よれたブラウスの襟元を直して、きっぱり告げる。

「お互いにあの日のことは忘れましょう」

綺麗さっぱりなかったことにしたくて、よそ行きの笑顔を顔に張り付けた。

剥がれたルージュは塗り直せば良い。

何もかも元通り。私とあいつはただの同僚。それで良い、それが良い。

今度は爽やかスポーツマン系でもおふざけナンパ系でもない、私だけを好きなってくれる人を探すの。

そのために本当はあんまり好きじゃない合コンにだって参加している。

運命の相手はまだ見つからないけれど、声を掛けてくれる人はいるものだ。

このままデートを重ねればお付き合いを始める日はそう遠くない。

佐伯には感謝している。

でも、もうおしまいにする。

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