もっと★愛を欲しがる優しい獣

私は佐伯と壁の間からスルリと抜けだした。

早く仕事に戻らないと、不審に思われる。トイレに寄って化粧直しもしたい。

情事の痕跡を跡形もなく消したい衝動に駆られて、資料室のドアノブに手を掛ける。

この扉を開けてしまえば、きっと元の喧嘩仲間に戻れるはずだった。

勢い良く扉を押そうとしたその時、私の耳に切羽詰ったような佐伯の声が届いた。

「抱いたのはお前だからだよ」

……これ以上惑わさないでよ。

「同情しないで、もう平気なんだから」

「強がるなよ」

(強がってなんかいないわよ、バカ)

強がりでどうこうできるなら、最初からあんたの腕の中なんて行かなかった。

もう、1年も経ったのだ。

別れた彼の元には、子供も生まれるという。

再会した時、憎む気持ちよりも変わらない幸せを願う気持ちの方がずっと強かった。

たぶん、とっくの昔に吹っ切れていたのだ。

……それは一体誰のおかげ?

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