もっと★愛を欲しがる優しい獣
「ところで、櫂くんはどの味のラーメンが好き?俺はね、やっぱり醤油かな。豚骨も捨てがたいけど」
「……何で殴ったのか聞かないのかよ」
櫂くんはポツリと呟くと、自分自身の言葉をかき消すようにお冷を口にした。
(もしかして、怒られると思って身構えていたのかな……)
連れ出した手前、殴った理由を聞くべきなのかもしれないが、俺にはそのつもりはない。
「俺は佐藤さんと違って、櫂くんを叱ることも慰めることもしないよ」
佐藤家に出入りしていても、俺はあくまで他人だ。ご家庭の事情にずかずかと土足で立ち入ることはできない。家族のように親身になることは出来ても、それはちょっと違う。
「まあ、ラーメンを奢るぐらいかな。俺に出来ることといえば」
……家族でないなら、せめて頼れる近所の兄ちゃんぐらいのポジションではいたいと思うけれど。
「お待ちどうさま」
店員が湯気の立ったどんぶりを運んでやってきた。
さあ、待望の醤油ラーメン大盛り野菜ましましのご登場だ。