全然タイプじゃないし!
2
あははははは、えーっと、今私トランスポーターの見過ぎで残像見えてない?
そう思って、瞬きをしてもしてもしてもしても残像消えないんですけど!
これ以上やるとツケマ取れる!
それで急に静かになった周りを見渡せば、みんなやっぱり同じ顔して花村を見ている。
これは、これはするとこれは現実なのか!!
「うわービールくさー」
と言いながら脱いだTシャツの裏を返している、上半身裸で目の前に立つ花村。花村に違いない。だってへらへらしてるし。
でもよ、でもこれは何でしょうか。そりゃジェイソン・ステイサムじゃないけどさ。均整のとれたきれいに筋肉がついた花村の体は、計算してきちんと作っていかなきゃこうはならないって感じの、仮装大賞ならズバーンと電光掲示板が跳ね上がって鐘が鳴り響くレベルだった。
押し黙る。言葉が出ないというのはまさにこの事だ。
こうなってくると、あの手がこのボディにつながって、手なんか霞んでしまう。 いや、私は今何を見ているんだろうか……これは幻ではないのだろうか。
なまっちろい以外の欠点が見当たらない花村を、私は呆然と見る羽目になった。
「洗ってきまーす」
そう言い置いて、花村が去っていく。背中もいい感じにしまっていた。そいでもってあの腰の細さにつながるとかよくわからん。全然無駄が無い。
「ちょ、大丈夫花音ちゃん」
魂が口から出かかっている私の肩に千沙が手を置く。
「ひゃあ、あれびっくりだね。どうよ、マッチョ狩り第一人者としてどうよ」
「マッチョ狩り第一人者って何よ」
「青い鳥は、自分の家にいるものなんだね~」
そう言って千沙がにやにやする。
「どうする!どうする!!」
私よりずっと背の高い千沙が、影を作りながら私を覗き込む。
「どうって、どうって、だって花村じゃん」
「けへへへへへへへ」
「変な笑い方すんな!」
そうよ、あれがどんなに理想的な体をしていたとしても花村である。へにょへにょしてへらへらしているのである。
吹けば飛ぶようなひょろひょろなのである。のはずであったのである。
私はうっかりよろめいて、クーラーボックスに手を置いた。何か、私の中で何かが崩れ去る音を聞く。
そりゃマッチョ好きですからね、あのようなボディをさらされたら、迷わずホールドするわけですけど、それは野良マッチョだからなんです。
しかし花村は野良マッチョではない。なんだろうか。この不安定な感じは……。
等とぼんやり考えていたら、周囲がざわざわとしだし、ふりむけば花村が戻ってきていた。
頭にかぶったビールも流したのか、黒髪にしずくを垂らして。何あいつ!!!花村のくせに色気垂れ流して歩いてんだよ!!!
「あ、あの辺にTシャツ掛けちゃっていいかなあ?」
バーベキュー場に適度に木陰を落とす木の枝を指さす。
「いいんじゃない?ところでさ」
チューハイ片手に適当な返事をした千沙が、花村に興味津々の目で話を振る。
「花村君て、何かスポーツでもやってるわけ?すごいナイスバディじゃん!」
「えー、そうかなあ。俺の姉の旦那さん、って義兄っていうんだっけ、その人がスポーツクラブ経営してて、何か家族割引してくれるっていってさ、家ん中に引きこもってないで、暇ならスポーツクラブで汗流したほうがいいよっていうからさ」
「へえ、そうなんだ」
「彼女もいないし、趣味もないから、暇な時に通ってるだけ」
「そのお兄さんが見てくれてるんだ?」
「そうそう、なんていうの、トレーナーもやってるからさ。よくわからないけど」
千沙と花村の会話を、耳をダンボにして背中で聞いている私。
そうか、プロが見てくれてるからあんなになるんだな。
「あれ、夏原さん何やってんの?」
急に話しかけられて、私の心臓が三センチほど浮き上がる。やめろ!私を動揺させるな!
「え、いや、べつに」
「あー、ちょっとは悪いと思っていじけてるんでしょ?悪いと思ったらすぐ謝ることが必要です」
そんな花村の説教じみた声を聞けば、何を花村のくせに!!と瞬間的に思うわけで、ぱっと立ちあがってくるりと振り返る。
うっっっっ!!!!!!!!
もろに眼前に出現している花村に、意識が遠のく。
「あれ、もしかしてビール飲み過ぎた?」
一歩近づく花村。二歩下がる私。何やってんだ私!!
「いや、別に!大丈夫よ、あはは」
「ほんとに?」
心配そうに一歩近づくからさらに私は距離を取る。
「あの」
「なんでもない、全然何でもないよ!」
「いや、何も聞いてないけど……」
「あははははは」
適当にごまかしてんだかそうでないんだか、よくわからない笑いだけをとりあえず残して、私はビールを飲みこんだ。急に炭酸が変なところにはいてゲホゲホむせる。
「急ぐとむせるよ~」
と、花村が前髪をかき上げて、ヘラリと笑った。その手はあの腕につながりそして二の腕になり胸筋に及ぶ……。
がー!直視できん。マッチョを直視できないとはこれいかに!!
というわけで、結局いつもの馴染みある、安心安全な花村の手に話し続けることとなった。
バーべーキュー大会も、こんな一幕もあったりしたがそれなりに楽しく進行し、肉もほどほど食べビールはがぶ飲みする。
もうさ、花村は置いておいて、とりあえず肉食べよう肉。
と思ってるのに、なぜか花村が私の隣にずっといる。
なんだ、あっち行け!あっち行けよう!!心は涙目で花村を追い払っているというのに、そんな心中を知らない花村はへらへら笑って私の真横でビールを飲む。
今更気づいたが、喉仏がぐりぐり動いてるし!なんだあの首!花村のくせにけしからんんんんんん!!
ひいいいいいいいい。誰かこいつを連れていってええええええ!!
こんなバーベキューコンロとクーラーボックスで挟まれた狭小空間なんかに二人でいたくない!
きょろきょろすれば、お近づきになりたそうな女子が散見している。
よし、いいぞ!さあ来い!!今だ!持ってってくれ!頼む!!と思っているのに、彼女たちは頬を染めてその場にいるばかり。
花村は当然そんな女子たちに気が付くわけがない。
「ちょ、花村君」
私は右手に話しかける。
「何?夏原さん。あ、ビール足りないの?」
なんで私が話しかけると決まってビールの事だけなんじゃい!いやそんなことは今どうでもよろしい。
「ほら、ちょっと周囲見なよ。女子の方々が花村君とお話ししたがってるじゃん!ああいうのを全力で拾いに行くと、花村君にとっては13年ぶりの彼女がゲットできるぜよ!」
こそこそとした声でそう告げる。
「えー」
ところがわかりやすくやる気のない返事をする。
「な、なにやる気のない声出してんのさ。こういうチャンスを掴まないからいつまでたっても彼女ができないんだよ」
さらに小声で私は言い募る。
「でもー」
だー!!なんて優柔不断なんだよもう!グズは嫌いだよ!
「だってなんか、怖い」
「は?」
「なんか視線が怖くて。ギラギラしてない?あの人たち」
そう言われて花村を見上げれば、本当に、犬耳でもあったらぴるぴる震えてそうな眼差しで私を見ていた。
何ビビってんのだ。マッチョのくせに。そう思ってはっとする。そうか、ハートに筋肉はまとえないんだった。
改めて、女子の皆さんを見る。みな頬を染め……いや紅潮させてる!!目がうるんでるんじゃなくて血走ってる!!確かにそう見ると怖い。
「別に危害は加えないと思うけど……」
「やだよ。夏原さん戦闘民族でしょ?怖いからちょっとここにいさせて」
そうして花村は、そのままずるずると、見事な半裸を披露しながら心でぴるぴる震えつつ私のそばでひたすらビールを飲んでいた。いつものように顔はへらへらしてるんだけど。
やがて「お疲れ様でしたー!」と最後まで素面でハイテンションの我が主任が締めの挨拶をして、解散となった。
この公園は交通の便が悪いので、行きと同じにタクシーを千沙と乗り合わせていくかと思っていたら、主任が家まで送ってくれると言ってくれた。やったー!
実は我が家は地理的には割と近くて、逆に駅まで行って電車で帰ると遠回りだったのだ。帰りにうちの前で私を降ろし、そのまま千沙を駅まで送ってくれると言う。
「ありがとうございます、主任」
「ははは!感謝せいよ!!」
本当は酔ってるんじゃないかというテンションで、主任が運転席で軽快な声を出す。
「えーっとじゃあ、小林と夏原と……」
「主任、いいんですか?」
ひょこっとあらわれたのは花村。今は例の全く似合わないTシャツ姿でボディのATフィールドが完全に閉ざされた状況に近いから私の心も再び平安に戻った。ふう。心臓に悪い。
「おお、いいぞ、乗って乗って~」
そうして車はバーベキュー場を後にした。秋の夕日は早く、空はすっかり茜色だ。
なんかひどく精神が疲れた。今日はトランスポーターも見ないで寝よう。そう思いながら車窓の外を眺めた。
「えーっと、ここ曲がればいいんだっけ?」
「そうです。主任ありがとうございました」
「あ」
突然花村が声を出す。
「なんだ、花村」
「俺もここで」
「え?」
「夏原さんちでいいです」
は?えええええええ?
一同がその一言で沈黙したというのに、花村は全然気が付かない。
「じゃ、じゃあ、ここで?」
「ありがとうございました」
さも当然の顔をして花村も一緒に車から降りる。
車の中からは主任と千沙が同じようなニヤニヤ笑いを浮かべながら私を見ていた。
「そういうことか!さすが戦闘民族だな、夏原!」
と主任が、参ったな~と言いながら親指をつき出す。
「え、ちょっとあの」
「そうよね、えへへ、私ったら余計なこと言ったわよねえへへ」
千沙は意味ありげな笑い声をこぼす。
「いやあのね、千沙、あの」
「じゃあ、また!月曜日にね!」
「ごゆっくり!!」
二人は、やけに朗らかな笑い声を響かせながら、夕陽の中へ消えていった。
で、だ。
うちのアパートの前に立っている花村と私。
なにが、どうなってるんだよ!!!!!
そう思って、瞬きをしてもしてもしてもしても残像消えないんですけど!
これ以上やるとツケマ取れる!
それで急に静かになった周りを見渡せば、みんなやっぱり同じ顔して花村を見ている。
これは、これはするとこれは現実なのか!!
「うわービールくさー」
と言いながら脱いだTシャツの裏を返している、上半身裸で目の前に立つ花村。花村に違いない。だってへらへらしてるし。
でもよ、でもこれは何でしょうか。そりゃジェイソン・ステイサムじゃないけどさ。均整のとれたきれいに筋肉がついた花村の体は、計算してきちんと作っていかなきゃこうはならないって感じの、仮装大賞ならズバーンと電光掲示板が跳ね上がって鐘が鳴り響くレベルだった。
押し黙る。言葉が出ないというのはまさにこの事だ。
こうなってくると、あの手がこのボディにつながって、手なんか霞んでしまう。 いや、私は今何を見ているんだろうか……これは幻ではないのだろうか。
なまっちろい以外の欠点が見当たらない花村を、私は呆然と見る羽目になった。
「洗ってきまーす」
そう言い置いて、花村が去っていく。背中もいい感じにしまっていた。そいでもってあの腰の細さにつながるとかよくわからん。全然無駄が無い。
「ちょ、大丈夫花音ちゃん」
魂が口から出かかっている私の肩に千沙が手を置く。
「ひゃあ、あれびっくりだね。どうよ、マッチョ狩り第一人者としてどうよ」
「マッチョ狩り第一人者って何よ」
「青い鳥は、自分の家にいるものなんだね~」
そう言って千沙がにやにやする。
「どうする!どうする!!」
私よりずっと背の高い千沙が、影を作りながら私を覗き込む。
「どうって、どうって、だって花村じゃん」
「けへへへへへへへ」
「変な笑い方すんな!」
そうよ、あれがどんなに理想的な体をしていたとしても花村である。へにょへにょしてへらへらしているのである。
吹けば飛ぶようなひょろひょろなのである。のはずであったのである。
私はうっかりよろめいて、クーラーボックスに手を置いた。何か、私の中で何かが崩れ去る音を聞く。
そりゃマッチョ好きですからね、あのようなボディをさらされたら、迷わずホールドするわけですけど、それは野良マッチョだからなんです。
しかし花村は野良マッチョではない。なんだろうか。この不安定な感じは……。
等とぼんやり考えていたら、周囲がざわざわとしだし、ふりむけば花村が戻ってきていた。
頭にかぶったビールも流したのか、黒髪にしずくを垂らして。何あいつ!!!花村のくせに色気垂れ流して歩いてんだよ!!!
「あ、あの辺にTシャツ掛けちゃっていいかなあ?」
バーベキュー場に適度に木陰を落とす木の枝を指さす。
「いいんじゃない?ところでさ」
チューハイ片手に適当な返事をした千沙が、花村に興味津々の目で話を振る。
「花村君て、何かスポーツでもやってるわけ?すごいナイスバディじゃん!」
「えー、そうかなあ。俺の姉の旦那さん、って義兄っていうんだっけ、その人がスポーツクラブ経営してて、何か家族割引してくれるっていってさ、家ん中に引きこもってないで、暇ならスポーツクラブで汗流したほうがいいよっていうからさ」
「へえ、そうなんだ」
「彼女もいないし、趣味もないから、暇な時に通ってるだけ」
「そのお兄さんが見てくれてるんだ?」
「そうそう、なんていうの、トレーナーもやってるからさ。よくわからないけど」
千沙と花村の会話を、耳をダンボにして背中で聞いている私。
そうか、プロが見てくれてるからあんなになるんだな。
「あれ、夏原さん何やってんの?」
急に話しかけられて、私の心臓が三センチほど浮き上がる。やめろ!私を動揺させるな!
「え、いや、べつに」
「あー、ちょっとは悪いと思っていじけてるんでしょ?悪いと思ったらすぐ謝ることが必要です」
そんな花村の説教じみた声を聞けば、何を花村のくせに!!と瞬間的に思うわけで、ぱっと立ちあがってくるりと振り返る。
うっっっっ!!!!!!!!
もろに眼前に出現している花村に、意識が遠のく。
「あれ、もしかしてビール飲み過ぎた?」
一歩近づく花村。二歩下がる私。何やってんだ私!!
「いや、別に!大丈夫よ、あはは」
「ほんとに?」
心配そうに一歩近づくからさらに私は距離を取る。
「あの」
「なんでもない、全然何でもないよ!」
「いや、何も聞いてないけど……」
「あははははは」
適当にごまかしてんだかそうでないんだか、よくわからない笑いだけをとりあえず残して、私はビールを飲みこんだ。急に炭酸が変なところにはいてゲホゲホむせる。
「急ぐとむせるよ~」
と、花村が前髪をかき上げて、ヘラリと笑った。その手はあの腕につながりそして二の腕になり胸筋に及ぶ……。
がー!直視できん。マッチョを直視できないとはこれいかに!!
というわけで、結局いつもの馴染みある、安心安全な花村の手に話し続けることとなった。
バーべーキュー大会も、こんな一幕もあったりしたがそれなりに楽しく進行し、肉もほどほど食べビールはがぶ飲みする。
もうさ、花村は置いておいて、とりあえず肉食べよう肉。
と思ってるのに、なぜか花村が私の隣にずっといる。
なんだ、あっち行け!あっち行けよう!!心は涙目で花村を追い払っているというのに、そんな心中を知らない花村はへらへら笑って私の真横でビールを飲む。
今更気づいたが、喉仏がぐりぐり動いてるし!なんだあの首!花村のくせにけしからんんんんんん!!
ひいいいいいいいい。誰かこいつを連れていってええええええ!!
こんなバーベキューコンロとクーラーボックスで挟まれた狭小空間なんかに二人でいたくない!
きょろきょろすれば、お近づきになりたそうな女子が散見している。
よし、いいぞ!さあ来い!!今だ!持ってってくれ!頼む!!と思っているのに、彼女たちは頬を染めてその場にいるばかり。
花村は当然そんな女子たちに気が付くわけがない。
「ちょ、花村君」
私は右手に話しかける。
「何?夏原さん。あ、ビール足りないの?」
なんで私が話しかけると決まってビールの事だけなんじゃい!いやそんなことは今どうでもよろしい。
「ほら、ちょっと周囲見なよ。女子の方々が花村君とお話ししたがってるじゃん!ああいうのを全力で拾いに行くと、花村君にとっては13年ぶりの彼女がゲットできるぜよ!」
こそこそとした声でそう告げる。
「えー」
ところがわかりやすくやる気のない返事をする。
「な、なにやる気のない声出してんのさ。こういうチャンスを掴まないからいつまでたっても彼女ができないんだよ」
さらに小声で私は言い募る。
「でもー」
だー!!なんて優柔不断なんだよもう!グズは嫌いだよ!
「だってなんか、怖い」
「は?」
「なんか視線が怖くて。ギラギラしてない?あの人たち」
そう言われて花村を見上げれば、本当に、犬耳でもあったらぴるぴる震えてそうな眼差しで私を見ていた。
何ビビってんのだ。マッチョのくせに。そう思ってはっとする。そうか、ハートに筋肉はまとえないんだった。
改めて、女子の皆さんを見る。みな頬を染め……いや紅潮させてる!!目がうるんでるんじゃなくて血走ってる!!確かにそう見ると怖い。
「別に危害は加えないと思うけど……」
「やだよ。夏原さん戦闘民族でしょ?怖いからちょっとここにいさせて」
そうして花村は、そのままずるずると、見事な半裸を披露しながら心でぴるぴる震えつつ私のそばでひたすらビールを飲んでいた。いつものように顔はへらへらしてるんだけど。
やがて「お疲れ様でしたー!」と最後まで素面でハイテンションの我が主任が締めの挨拶をして、解散となった。
この公園は交通の便が悪いので、行きと同じにタクシーを千沙と乗り合わせていくかと思っていたら、主任が家まで送ってくれると言ってくれた。やったー!
実は我が家は地理的には割と近くて、逆に駅まで行って電車で帰ると遠回りだったのだ。帰りにうちの前で私を降ろし、そのまま千沙を駅まで送ってくれると言う。
「ありがとうございます、主任」
「ははは!感謝せいよ!!」
本当は酔ってるんじゃないかというテンションで、主任が運転席で軽快な声を出す。
「えーっとじゃあ、小林と夏原と……」
「主任、いいんですか?」
ひょこっとあらわれたのは花村。今は例の全く似合わないTシャツ姿でボディのATフィールドが完全に閉ざされた状況に近いから私の心も再び平安に戻った。ふう。心臓に悪い。
「おお、いいぞ、乗って乗って~」
そうして車はバーベキュー場を後にした。秋の夕日は早く、空はすっかり茜色だ。
なんかひどく精神が疲れた。今日はトランスポーターも見ないで寝よう。そう思いながら車窓の外を眺めた。
「えーっと、ここ曲がればいいんだっけ?」
「そうです。主任ありがとうございました」
「あ」
突然花村が声を出す。
「なんだ、花村」
「俺もここで」
「え?」
「夏原さんちでいいです」
は?えええええええ?
一同がその一言で沈黙したというのに、花村は全然気が付かない。
「じゃ、じゃあ、ここで?」
「ありがとうございました」
さも当然の顔をして花村も一緒に車から降りる。
車の中からは主任と千沙が同じようなニヤニヤ笑いを浮かべながら私を見ていた。
「そういうことか!さすが戦闘民族だな、夏原!」
と主任が、参ったな~と言いながら親指をつき出す。
「え、ちょっとあの」
「そうよね、えへへ、私ったら余計なこと言ったわよねえへへ」
千沙は意味ありげな笑い声をこぼす。
「いやあのね、千沙、あの」
「じゃあ、また!月曜日にね!」
「ごゆっくり!!」
二人は、やけに朗らかな笑い声を響かせながら、夕陽の中へ消えていった。
で、だ。
うちのアパートの前に立っている花村と私。
なにが、どうなってるんだよ!!!!!