MIRROR-ЯOЯЯIM
その時、私は思い出した。

都樹は…満月を見ると暴走してしまう、オオカミ男だ。

その姿を一度も見ていないから忘れていたし、そもそも嘘なんじゃないかと思う気持ちもどこかにあった。

「いいから逃げろって!」

都樹の目は本気だった。私は逃げようと、都樹に背を向けた。

だけど…。

都樹のことが、心配だった。

暴走状態がどうやって止まるのかは知らないけど、都樹を一人にはしておけない。

都樹のことを、放っておけない。

「早く逃げ…ウオォォォ!」

都樹の雄たけびに、私はその場から動けなくなった。都樹の爪は鋭く大きくなり、頭からはオオカミの耳が生え、さらに口からは牙も見える。

これが、都樹の暴走した姿…。

もちろん怖かった。だけど、その場から動けなかったし、動くつもりもなかった。

「ヴォルゥッ!」

都樹が腕を振り上げ、爪を私に向けた。どうやら、今の都樹には目に映るもの全てが敵に見えているらしい。

「…。」

私は死を覚悟した。見た目からして、この爪は危険すぎる。

爪が振り下ろされる。

「キィィィン!」

鋭い音。私は、痛みを感じなかった。
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