金魚鉢越しの空
いままで
小学生になって初めての夏と家族旅行。
胸踊る気持ちの中、どこか不安に思う自分。
だけどそれは、きっとこの暑さのせいだ。
今年一番の熱さを記録したこの日、佐倉嶺人は両親に手を引かれて水族館に来ていた。
館内は涼しくて気持ちが良かったが、大きな水槽の中泳ぐ魚達はどこかつまらなそうで、見ているのは少し辛かったのを覚えている。
昼食を食べに外の公園に行った。
木陰にいてもジカジカと照り付ける日差しは、父親の額に大粒の汗を浮かび上がらせ、それを母親がガーゼのハンカチで拭いていた。
嶺人は自分も拭いて欲しくて、母親の腕を掴み自分の額も汗でいっぱいだよと言うと、母親は、はいはい。と優しく微笑み嶺人の額を拭いてあげた。
午後は公園で父親とキャッチボールをした。
小学校に入り、同じクラスの子と一緒に少年野球チームに入って野球を始めた嶺人は、父親に強くなっただろう。と自慢気にボールを放った。
10mそこそこしか離れて居なかったが、父親はよく届くようになったな。と嶺人の頭をガシガシと撫でた。
嶺人は嬉しそうに頬を赤らめた。
本当に楽しかった1日はあっと言う間に過ぎていく。
初めての場所、初めての香り、初めての思い出。
どれもこれも、ミンミンと忙しなく鳴く蝉の声さえも嶺人の大切な物になっていった。
そして帰りの事だ。
帰りの車の中。
小さな音で掛かるラジオと、両親の談笑を子守唄に嶺人は後ろの席でスヤスヤと寝ていた。
母親は持っていたカメラで嶺人の寝顔を一枚、パシャリと撮った。印刷も確認も思い出に浸る事もされずに消えていくとは知らないで。
海沿いの高速道路はどこまでもスピードを出して走っていけるような感覚になる。
そして、夕焼けがバックミラーを照らし、チカチカと眩しい。
目に入った日差しに父親が目を少し眩ました。その時だったーーー。
ガシャンッ!!!!!
大きな音が夕焼け色に染まる海に響いた。