やっぱりあなたの事が好き
「美穂ちゃんやっけ?ごめんな」

「えっ?」


男の人に名前で呼ばれたのは、幼稚園以来。

その事に驚き、私は矢野くんの顔を見る。


「あっ、ごめん。名前、間違えた?」


私が驚いていてから、矢野くんは“名前を間違えた”と思ったみたい。


「いえ、合ってます。ただ、私、小さい頃以来、男の人に名前で呼ばれた事がなかったから。だから、名前で呼ばれた事に、ちょっとびっくりして……」


初対面の人に、こんな事をわざわざ話すのもどうかと思ったけど。

矢野くんの雰囲気が、私のどんな話でもちゃんと聞いてくれそうに思えたから、人見知りの私だけどかまえずに正直に自分の事を話していた。


「そうなんや。ごめん、嫌やった?」

「いえ、そんな事ないです」

「よかった」


矢野くんはにこっと笑う。

だけど、


「それより、ごめんな」

「えっと……、何が?」

「今日、メシ行くの、光司が無理矢理、誘ったみたいやったし……」


矢野くんは申し訳なさそうな表情になる。


「いえ、大丈夫ですよ。それより、そんなに謝らなくても……」


実際、間宮は無理やりっていうか、しつこかったけど。

でも、それは間宮がしつこかっただけで、矢野くんは関係ない。

だから、矢野くんがそんなに謝らなくてもいいのに……


「っていうか、同い年やねんし、タメ口でいいで。それと俺の事は“賢太”でいいし」

「うん、わかった」


私が頷くと、申し訳なさそうにしていた賢太が笑顔になる。

そんな賢太の笑顔を見て、私は自然と笑顔になった。


そして、間宮と莉子の後に続いて、私達は居酒屋に入った。


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