クロスストーリー

「とりあえず歩こう、その内なにか見つかるだろう。」

木々が競い合うように伸びている中、一人と一匹は歩き出した。


「…この辺猛獣とかいるのかな?」

学園長から貰った服は、無機質だけど動きやすい作りになっていた。
着替える際鞄に仕舞っていたナイフを再びベルトにつけると後ろについていた子狐を肩に乗せる。
軽く湿っていたのか、肉球についていた土が肩を冷やすが、カミヤはそんなもの気にしない。
子狐も自分の定位置として気に入ったようだ。

「そういえばさ、お前の名前を決めて無かったよね。」

尾をパタパタと揺らしながら周りを見回す相手を見て、もう逃げたりしないだろうと判断したらしい。
キュ?と鳴き声を上げる相手の胴を持ち上げると短い時間見つめて呟く。

「…雌か、名前どうするかな」

「グギュー…」

ジタバタと暴れているあたり、苦しくなってきたようだ。
とりあえず肩に戻すと歩きながらこの子に付ける名前を考え始めた。

「うーん…お前と出会ったのは浜辺にあった林の中で、海…ウミじゃ変だよな、あ、そうだ」

もう一度、今度は胴の他に尾の部分から支えるように抱いて見つめる。

「ユナ、『夕凪』からとって、ユナでいいか?」

「キュ?キューン♪」

理解したのかどうかは分からないが、気に入ったようなので良しとしよう。
とりあえずと、あの建物から直線状に歩いてみたがどうにもこの森から抜け出せる気がしない。
その建物自体も歩いているうちにいつの間にか見えなくなってしまっていた。
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