クロスストーリー
グギャアアアアア!!!?
鬼の声に似た咆哮が鳴り響く。
反撃されないうちに素早くナイフを引き抜き地面へと飛び降りた。
「なんだこいつ…?」
大きい、熊ほどあるだろうか?
だが見てくれはどうみても猪である。
牙は4本生えており、体毛は黒く、目は血走っているのかと見間違うほど紅い。
「…『大猪』?」
率直に思いついた感想がそれだった。
「あ、あの…?」
不意に後ろから声をかけられる。
目線をずらす訳にはいかなかったが、声から察するに女の子なのだろう。
混乱しているのもよくわかった。
「…危ないから逃げてて、大丈夫だから。」
なるべく優しい口調で言えただろうか、そんな余裕も相手の様子が変化したことですぐに無くなった。
こんな状況で冷静にいられる自分も大概どうかしているなと嘲笑しつつ、再びナイフを構える。
不意打ちとはいえ、攻撃されたことでどうやら餌から敵に格上げされたらしい。
ブォオオオオ!!!!
耳を劈くような雄叫びは、先ほどの悲鳴とは全く別のものだった。
6本の足を八の字に構え、流れる血など意に介さぬように目と牙をこちらに向ける。
…なるほど、これがこいつのファイティングポーズか。