クロスストーリー

前足に力が入っているのか、徐々に体が前かがみになっていく。
…跳んでくるつもりか。

「…っ!!」

相手が動いたと思った瞬間、カミヤは横に跳ねた。
失点は防具を何一つ身に着けていなかったこと、お陰で掠られた脇腹は少し抉れている。
幸運だったのは猪の突進速度が予想以上に遅かったこと、もう少し様子を見てから避けようとしていればその時点で致命傷だった。

「どうするか…興味がこっちに来ている内になんとかしないと。」

自分でこれでは矛先が彼女に向いたらひとたまりもないだろう。
踵を返した相手に向かう視線は鋭く、刃を握るその手には微かな汗が滲む。
呼吸を整えて集中を強める。
…落ち着け。
自己暗示にも似た対処法、これも気が付いたら勝手に始めていた。

「ふぅ…よし。」

タンっと一旦後ろに跳ねた、だが大猪はそれを見逃さない。
体を戻したばかりのせいなのか、先ほどより勢いはないものの猛然とこちらに突進してくる。
カミヤが着地した時、大猪はもうすでに目の前まで迫っていた。

「フン!!」

激突するかしないかの直前、カミヤは体を勢いよく回転させ、その一瞬だがある場所を狙って斬りつけた。
瞬間、大猪が再び悲鳴を上げる。
狙ったのは目。
躱す際ボクシングのラピットパンチのように回転しながら目のあたりを擦ったのだ。
無論その隙を逃がさない。

「無駄に動物を狩る気はないんだけどな…敵意を向けられて無抵抗な生き物は居ないよな。」

斬りつけたナイフからはまだ命の続く温度の血が静かに零れ落ちる。

「じゃあな」

失った視界から額に目がけ、銀と赤に輝くソレをカミヤは勢いよく突き刺した。
-ズズン。
大きく目を見開いた猪は、自分が死ぬことを悟ったのだろう。
それを合図に猪は大きく音を立てて崩れ落ちた。
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