クロスストーリー
一輪明月
「…」

あれだけ昼間慌ただしかったというのに、不思議と眠くはならなかった。
人はあまりにも多くの経験を短期間にしてしまうと脳が処理できなくなり、興奮状態が続くというが、カミヤの現状はそれなのだろう
隣で寝息をたてる子狐を撫でると小さく耳を揺らした

「…ちょっと散歩でもするか」

-寮屋上-

「へェ…綺麗な場所があるもんだ。」

着の身着のままで屋上へとたどり着いたカミヤは、その幻想的な雰囲気に思わず溜め息をついた。
鈴虫の鳴き声に包まれ、ここまで来たことで僅かばかりに火照った体は初夏の夜風に撫でられ心地よく冷えていく。
花壇前の小さなベンチに腰かけると、先客の気配を感じて視線を向けた。

「…生徒さんかい?」

「!?…っ」

先客にとっては気配を消して隠れていたにも関わらず、一瞬で気付かれた事に男は驚くも諦めたのかそれ以上隠れようとはしなかった。
仮にも特待生なのだからそれ位はすると予想していたのだろう。
フードを深く被り直し、大人しく陰から出ると敵意の無いよう両手を上げ。

「申し訳ありません…気分を害するつもりは無かったのですが。」

「…なんで敬語?」

声の感じからして、自分より若そうに見えるが妙に他人行儀で…それが上手く出来てない
まるで最近その話し方になったような、変な違和感がある。
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