クロスストーリー
下から振り上げられたナイフは相手の顎先めがけ真っ直ぐと動いていく…のだがカミヤはそのナイフを靴で踏み潰すように防いだ。
金属と合皮…すこしでもナイフが横にズレれば、また『斬る』ではなく『刺す』ならば確実に貫通するであろう状況だが予想外の防ぎ方に銀髪の男の動きが一瞬止まる。

「…。」

その一瞬、男から掛っていた力がほんの少し緩んだのを感じると鍔迫り合いになっていた右足を離し、銀髪の男の胸に蹴りを入れる。
うっ…という声を上げながらその脚力に飛ばされるも男はすぐに短刀を構え体勢を立て直した。

「………。」

相手の胸を蹴り抜いた後、怒りに震える相手とは裏腹にカミヤは不思議なほど冷静に対処している自分に違和感を覚えていた。
猪の時といい…記憶を失っているにもかかわらず、頭で考えるより早く自分の体が動く。
それも不良の喧嘩などとは全く違う、体が『型』を覚えている。

体が動いた後、次にどうすべきなのか、どうすれば素早く相手を屠れるのか思案している事に気がつくがこの場で疑問を解決しようにも、相手もそう長い間待ってはくれない。
再び接近し、今度は軽いスナップを利かせて連続で斬りかかるナイフを再び足で弾く

「その靴…鉄板でも仕込んでんのか…?っ…なんで斬れねえんだよ…っ。」

「軽量の刃物は押し潰すだけではその威力を発揮しない…相手に合わせて受け流せばいい…。」

そこまで言ったところで、カミヤの頭に鋭い痛みが走る。
戦いに集中すればするほど変わっていく口調や思考、それが呼び水となって頭の中の何かが決壊するような気持ちの悪い異変。
数瞬にも満たない時間、そのせいでカミヤの意識が止まった。

「…貰った!」

ハッとするも時すでに遅く、今度は体を捻じらせ回転させると銀髪の男はカミヤの首元目掛けナイフを動かした。
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