クロスストーリー


いつまでたっても地面に着かないと思っていると死体しか居ないはずの周りがやけに騒がしい。
恐る恐る眼を開けると俺は……










空を飛んでいた。

いや…正確には浮かんでいた…か。

罵られ貶され毟られてボロボロになった羽は、無意識の状況でも頼りなくパタパタと動いている。
撃ち落そうと商人や町の護衛兵が投石機を用意しているのを見て遠目に見えた森目指して必死に逃げた。





………
……






「ハァ…ハァ……」

-森の中-

血と埃だらけになった躰を空から見えた泉で洗い、痛んだ羽を休めていたところで俺は、あの人に出会う。

自分と同じ、それよりも黒く美しい髪。
その人…いやあの方はボロボロの俺の前まで近づくと頭に手を乗せ、俺はそのまま気を失った。

眼が覚めて感じたのは柔らかな感触、俺は…ベッドの上にいた。
誰もいない…家具すらない真っ白な部屋。
治療されている身体に気づき、出口を探して扉を開けておぼつかない足取りで細い廊下を歩く。
あの人がしてくれたのか?
ここはどこなんだ?
いやそれよりも……



『お礼を言わないと。』

助けてくれたのが誰なのかはまだわからない、あの人だったのか、それとも別の人だったのか。
でもこれ以上生き物の音がしない場所にいるのは耐えられない。
スラムにいた時も、奴隷生活をしていた時もそこに「命」はあった…
だがここにはそれが無い。

「………ック」

身体が重い、足に力が入らない、なんて事ない距離の扉が…遠い。



「……何をしているんだい?」

「!!!!?」

扉に手を掛けた時、後ろから肩を叩かれた。


「な……!?」

手を握って渡されたのは、宝石。
茫然とする俺にあの方は顔を近づけ…













……唇を、奪われた。
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