クロスストーリー
「キュッキュ!」

「あ、コラ勝手に…。」

ピョンと飛び跳ねて中に入るのを見て釣られてカミヤも部屋に入る。
幸いにもまだ明るかったので明かりを点ける必要はなさそうだ。
白く靄の掛った窓を開け、室内に風を通すとカミヤはそのまま椅子へ座る。
そして静かに目を閉じた、形だけでも周囲から隔離され、守られている空間でただ一人…。

「キュ~…?」

そのまま眠ったように動きを止めてしまったカミヤを見て、子狐は椅子の周りをうろうろ回る。
五分ほどの静寂の後、カミヤは再び眼を開いた。

「…やっぱり駄目か。」

ハァ…とため息を吐いてから足元にいた狐を抱き上げる。
自分が何者なのか?そのたった一つの疑問は解決する事なく…。
ふと本棚に眼をやるとその疑問が更に深まるような事態に直面することとなった。

「………。」

背表紙の文字が見える場所まで近づいたところで、男は再び茫然と立ち尽くす。
混乱、動揺、懐疑?目の前にある書物を手に取ってページを開くもそこに書かれているものは先ほど自分の持ち物に書いてあった文字とは全く違う…というか見たことも無いような言語で書かれていた。

「…なんだ?これ…。」

ここが実は外国だとか、まだ自分の記憶が戻っていないとか、そんなレベルでは無い。
目の前の書物に書かれている文字は自らの記憶の中のどれとも違い、またどれにも似て無いのだ。
それはまるで…。

「…ここは本当に俺が知っている世界なのか?」
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