臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)

「亜樹はいるかなぁ。彼女がいると、分からない所を教えて貰えるから助かるんだよな」

 そう言って図書館の中へ入り、奥の方を見る健太だったが、いきなり身をひるがえした。

「あっ、ワリィ……俺、急に用事思い出しちゃってさ。さ、先に帰るから康平は勉強頑張れよ」


 康平が聞き返す前に、健太は左手を上げて図書館を出ていった。


 一人でも勉強するつもりだった康平は席を探す。この日は図書館へいる人数が少なく、空いている席は多いようだ。更に彼は背の高い女の子を見付けようとした。

 亜樹の事であるが、彼女は身長が百七十二センチの康平と殆んど変わらない。

 康平は苦手な数学を教えて欲しいのもあり、立ち止まって周囲を見回した。


「痛っ!」

 突然康平の左太ももに鈍痛が走る。

「誰か探しているようだけど、私に気付かないなんて失礼ねぇ」

 手前の席へ座っている弥生が、彼の左太ももへ正拳突きをしたのだ。

< 109 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop